名古屋高等裁判所 昭和30年(う)508号 判決
第一、昭和二十九年十一月十一日頃濁酒一斗二升位を製造し
第二、その頃濁酒一斗五升位を製造し
たものであるというのであつて、これに対し、原判決は、
被告人は、所轄税務署長の免許を受けることなく、肩書の自宅において、清酒を製造しようと企て、
(イ) 昭和二十九年十一月八日頃、三斗かめ(証第二号)に白米二升位、米こうじ三升位及び水約一斗を原料として仕込み、醗酵させて、もろみ約一斗二升を製造し
(ロ) 次で、同月十一日頃、二斗かめ(証第一号)に白米二升位、米こうじ三升位及び水約一斗を原料として仕込み、醗酵させて、もろみ約一斗五升を製造し
(ハ) 同月十一日頃、前記(イ)の仕込によつて製造したもろみの内約四升五合をすいの(証第四号)でこして、清酒三升位と、更に翌十二日頃、約一升五合を同すいのでこして、清酒一升位を各製造したが、爾余のもろみについては、収税官吏に発見されて、所期の目的を遂げなかつたものであるとの事実を判示し、
適用した法令として、
清酒製造の点につき、
酒税法第三条第三号イ第七条第一項第五十四条第一項罰金等臨時措置法第二条
同未遂の点につき
酒税法第三条第三号イ第七条第一項第五十四条第二項罰金等臨時措置法第二条、
刑法第五十四条第一項後段第一条
等を掲記しているのであるが、前記判示事実及び適用法令から考察すると、原審は、前記(イ)のもろみ約一斗二升の内約六升をこして、清酒四升位を製造した所為を清酒製造既遂罪と認定し、(イ)の爾余のもろみ約六升及び前記(ロ)のもろみ約一斗五升を製造したが清酒製造の目的を遂げなかつた所為を清酒製造未遂罪と認定したものであると推察されるのであるが、適用した法令として、刑法第五十四条第一項後段の規定を掲記してある点は、まことに諒解に苦しむところであり、その意味をそん度すれば、清酒製造未遂のもろみ製造の所為と清酒製造既遂の所為との間に手段結果の関係ありと判断されたものではないかと思考されるのである。
然し、原判決掲記の証拠によれば、被告人は、清酒を製造する意図の下に、先づ、昭和二十九年十一月八日頃、三斗かめに前記(イ)の材料を原料として仕込み、醗酵させて、清酒もろみ(濁酒)約一斗二升を製造した後、同月十一日頃、その内約四升五合をすいのでこして、清酒三升位と、更に翌十二日頃、内約一升五合を同様こして、清酒一升位を製造したが、爾余のもろみについては、収税官吏に発見されて、清酒製造の目的を遂げなかつたものであり、なお、これとは別に、同月十一日頃、二斗かめに前記(ロ)の材料を原料として仕込み、醗酵させて、清酒もろみ(濁酒)約一斗五升を製造したが、前同様の事由により、清酒製造の目的を遂げなかつたものであることが認められる。そして、清酒製造の目的をもつて、原料を仕込み、醗酵させて、清酒もろみを製造し、その一部をこして、清酒を製造したが、発覚して、爾余のもろみについては、清酒製造の目的を遂げなかつた場合においては、右清酒の製造とその未遂は、包括して、清酒製造既遂の一罪を構成するものというべきである。そうであるとすれば、原審が前記(イ)(ハ)のように一回の仕込みによる製造を既遂と未遂の別罪を構成するものと認定したのは、事実の誤認があるといわなければならない。又いずれも、清酒製造の目的で、その犯意が継続していたとしても、前記認定事実のようにそれぞれ異つた日時に別々の容器を使用し、なお、原判決掲記の証拠によつて認められるように原料として使用した米は、前者の時は配給米を、後者の時はブローカーより買い入れた米を使用し、又、米こうじは、前者の時と後者の時と別々に買い求めたものを使用して、それぞれこれを仕込んで、醗酵させて、製造した場合においては、到底これを包括した一罪と認定することはできず、それぞれ別罪を構成し、併合罪の関係にあるものと解すべきであり、そうであるとすれば、原判決が(その認定事実は、あまり明確ではないが、判示事実と適用法令から考察して、前記(ハ)の清酒製造既遂の一罪と(イ)の残余と(ロ)を包括して清酒製造未遂の一罪と認定したものと認められるのであるが)併合罪の規定を適用しなかつたことは、法令適用に誤があるといわなければならない。そして、前記の事実誤認及び右法令適用の誤は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は到底破棄を免かれない。
よつて、検察官の量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十条第三百八十二条に則り、原判決を破棄し、同法第四百条但し書に従い、当裁判所において自判することとする。
罪となるべき事実。
被告人は、所轄税務署長の免許を受けることなく、肩書の自宅において、いずれも、清酒を製造しようと企て、
第一、昭和二十九年十一月八日頃、三斗かめ(証第二号)に白米二升位、米こうじ三升位及び水約一斗を原料として仕込み、醗酵させて、清酒もろみ約一斗二升を製造した後、同月十一日頃、内約四升五合をすいの(証第四号)でこして、清酒三升位を、更に翌十二日頃、内約一升五合を同様こして、清酒一升位を製造したが、その頃、収税官吏に発見されて、爾余の清酒製造の目的を遂げず
第二、同月十一日頃、二斗かめ(証第一号)に白米二升位、米こうじ三升位及び水約一斗を原料として仕込み、醗酵させて、清酒もろみ約一斗五升を製造したが、同月十二日頃、前同様発見されて、清酒製造の目的を遂げなかつたものである。
証拠の標目は、原判決掲記と同一であるから、これを引用する。
法令の適用を示すと、判示第一の所為は、包括して、酒税法第七条第一項第五十四条第一項に、判示第二の所為は、同法第七条第一項第五十四条第二項第一項にそれぞれ該当するところ、検察官の量刑不当の論旨及びこれに対する弁護人の答弁を彼此検討し、記録によつて認められる諸般の情状を考慮すれば、原判決が所定刑中罰金刑を選択したことは相当であるから、当裁判所においても、同様罰金刑を選択するが、原判決が刑の執行猶予を言い渡した点は当を得ていないと認められるので、当裁判所においては、その言渡をしないこととし、所定金額の範囲内において、被告人を判示第一及び第二の事実につき、各罰金二千五百円に処し、刑法第十八条に則り、右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、領置にかかる主文第四項掲記の物件は、本件犯罪にかかる器具又は容器であるから、酒税法第五十四条第四項により、これを没収することとする。(原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項但し書に従い、被告人に負担させないこととする。)
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 高橋嘉平 判事 大友要助 判事 海部安昌)